有機合成:学生の頃知っていればタメになる精製方法 slurry purification

私は学部 4 年から大学院 修士, 博士と進学し社会人研究者となりました.

この長い学生生活の時に身に着けたのは,

有機合成反応の仕組み
実験の進め方
物性値の集め方
論文の書き方

です.

学生の頃はそのモノを作ること自体やどう作るかが実験の主体となりますが, その精製方法は議論されることは少ないです. 一方で, 商用生産となるとその精製方法の確立が非常に重要な研究対象となります.

大学の研究をざっくり大きく分けると反応開発派または全合成派の 2 種類に分かれるでしょう. そうはいっても「反応開発から見つかった反応で全合成しよう」とか「全合成過程で見つかった新反応を研究しよう」とかいうことがよく起こるので, べつに垣根があってないようなものです. 何をやりたいかで自由にそのフィールドを行き来出来ます.

さて, 学生の頃に学んでさえいれば, もっと楽に研究が進んだであろうものに「精製方法」があります. この精製方法について気が向いたら書いていこうと思いました.

スラリー精製は使える
シリカゲルカラムは時間が掛かりすぎて面倒です. 再結晶も溶解と晶析が上手くいく条件を見つけなければならずその最適条件を見つけるには苦労することが多いです. そんな時役に立つのがスラリー精製です.

スラリー精製とは目的物が溶けにくい溶媒で, 反応後の租体を懸濁させて攪拌し, 固体として目的物を濾別回収し濾液として不純物を除く方法です.

目的物の結晶性が良く, 不純物の溶解性が高い時には使い勝手がとても良い方法です. 目的物の物性が明らかであれば, シリカゲルカラム精製を行う前に, スラリー精製を試してみるのがおススメです.

もちろん再結晶の様に 2 溶媒系を用いることもできます.

① 冨溶媒に目的物を懸濁させて攪拌
② 貧溶媒を滴下させて目的物を押し出し
③ 所定の時間攪拌させて濾別回収

溶媒量
冨溶媒は等量計算の基準とした出発原料重量の 2-5 倍量 (v/w), 貧溶媒は 5-10 倍量くらいで試すのが一般的でしょうか.
(v/w は 溶液量/重量 を示しており, 溶媒の溶液量を原料重量の何倍まで使うかを示します. 学生の頃は mol 濃度で計算するのが一般的でしたが, 社会人になってからはこれで議論されることは少なくなりました.)

貧溶媒で大好きなのはイソプロピルエーテル (IPE) です. 目的物結晶中に残留することもありますが, 良い結果を与えることが多いです. 気に入っています.

何故精製できるのか
目的物の表面部分が溶解と晶析を繰り返し, 非常に小さいスケールで再結晶精製が繰り返し起こるようなイメージです. その過程で結晶生成にそぐわない不純物は溶液中に押し出されます. この現象を促進するために加熱下でのスラリー精製を選択することもできます.

再結晶するには結晶性が良すぎる. カラム精製は面倒. こんな時に使えます.
以上, スラリー精製でした.

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