消えた 500 兆円の反省: 日本でも中古不動産の市場環境が整えられる可能性が出てきた


現状

これまで日本の中古住宅はその管理状態に関わらず 25- 30 年程度で一律に価値がゼロになっていました. このため不動産は資産というより自動車のような耐久消費財に近いというのが日本の住宅市場の現状です. その結果, 住宅市場に投入されてきた個人資産の大半は文字通り減価償却費の形で失われ, その額は累積で 500 兆円と膨大な規模となります. 米国と日本の住宅投資累積額と評価額の比較を下図に示します.









グラフは野村資本市場研究所のデータをもとに著者が作成
上記グラフの通り米国では累積住宅投資額が評価額と同額か上回るのが常識ですが, 日本では下記の通り累積額と比較して 500 兆円もの評価損が生じています.
もしこの額が累積で残っていたならば日本人の家庭部門の資産残高は金融資産約1700兆円と合わせて 2500 兆円を超えていたはずです.

この日米の違いは住宅への考え方, その取扱い方に大きな影響を与えています. 米国では住宅の保全, 維持は投資と同意義であり, 資産価値の維持, 増加のためにペンキの塗り替え, 自家用プール等の設備の導入や庭の手入れを頻繁に行っています.

住宅保全はいわば彼らのライフスタイルとなっています. 当然市況の影響は受けますが, これらの行動はしっかりと資産価値の維持向上という形で不動産市場で評価され, 売却時には相応の価格で手放すことができるのです.

一方で, 日本では築年数により住宅価格が下がるのは常識であり, たとえ手入れが行き届いた新築同様の物件だったとしても, 他の物件と同様に築年数のみで評価されざる負えませんでした. これでは資産価値維持のために必要な必要最低限の住宅の手入れ, 保全を行うこと自体にインセンティブが働かず, 結果として質の悪い中古物件が出回る原因にもつながります.


売る側は売却価格が低すぎる関係で手放せず, 購入希望者の方には石玉混合の中古住宅市場から玉を見つける選択眼が要求され, 中古市場自体の発展を妨げる要因となっていました.


この現状を国が変えようとしています.
築年数によらない価値算定方法の導入です.

これまで個別に取り扱っていた住宅情報を整備, 一元化して 『住宅履歴情報』 と呼ばれるシステムの導入を計画しています.

住宅履歴情報に含まれるものは

・設計図

・リフォーム図面

・住宅診断レポート

・その他建物の価値算定に繋がる情報一式

これらを整備することにより価値算定のエビデンスが得られる様に仕組みづくりを行います.


設備の維持管理記録, 修繕記録等を記録として残し, 建物の居住性が劣化していないことを証明することで, その価値が維持されていることを裏付ける仕組みです.

この仕組みが定着し, 中古市場の流動性が向上すれば, これまで続けてきた国民資産の壮大な無駄遣いも多少は改善されるのではないでしょうか.

新築住宅の建設はご存知の通りそれに付随する家財の購入など波及効果が大きく, 国が積極的に後押しすることでその市場の拡大と新築至上主義が日本で定着してきました. しかしながら人口減を迎えることが明らかとなった昨今では, この様な使い捨ての住宅市場に永続性は望めず, 今後急激に増加する空き屋問題が現実的となっています.
家庭も企業も国も環境もその永続性が何より大切です.

私は現在賃貸です. 仕事の状況も流動的であり, 転勤の可能性も捨てきれないため, まだまだ居を構える状況にないというのもありますが, 一方で上記のような日本の住宅環境から購入に踏み切れずにいることも確かです. より流動性の高い株式の形で資産を持っています.

一般的な日本人はその保有資産を住宅という固定資産に振り分けることが多いです. そのため流動性が高い預貯金という形でその他の資産を持たざる負えない面もあります. 売りたいときに売れ, 買いたいときに買える. より確立された不動産市場が形成されれば, 結果として預貯金偏重の日本人の資産状況にも多少なりとも良い影響を与えるのではないでしょうか.
壮大な使い捨ての時代から, 次の世代へと繋ぐ時代が訪れようとしています.

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