物価は上がる. でも決して日銀のおかげではない. 労働市場の構造変化から見る日本の未来②

前半は日本がデフレを迎えた経緯を生産年齢人口の推移等を交えて考察し, 番外編では物価の上昇が続いていることを食料価格とエネルギー価格の上昇から見てきました. 最終回である今回は労働市場の転換から見るデフレ脱却について考察していきます.


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もう一度, 以下に『生産年齢人口』『雇用者数』『一人当たり生産性』『平均給与』をプロットしたグラフを示します. 右軸が『万円』左軸が『10万人』となっています.

総務省データより作成

更なる生産年齢人口の低下により労働市場の構造転換を迎える.
総務省の統計によると現在 (2016年データ) の就業者数は生産年齢人口は7708 万人で, そのうち 6440万人が何らかの仕事に付いています.  ここから労働人口の余力が 1276 万人であることが分かりますがそうち 920 万人は 22 歳以下です. この 920 万人中, 758 万人が高校生又は大学生です.  正味の労働人口の余力は 518 万人程度しかありません. 個々の事情により, この 518 万人すべてが職に付ける訳ではないため, ほとんど労働力に余裕が無いことが分かります.

ちなみに 65 歳以上の就業者数は現在 681 万人います. 高齢者男性の 29%, 女性の14% が就労している計算です. 人口ピラミッドで最も厚い層である彼らが就労することで, 学生 (高校生および大学生) として失われた労働力の 90% をカバーしています. しかし彼らもいずれ職場を去ることは避けられません.


需要と供給から賃金水準が上がる
全ての価格は需給によって決まります. それは労働市場でも同じことです. これまでは労働市場の需給のゆるみにより賃金を安く抑えることが出来ましたが, 今後は上記の通り労働市場の需給がひっ迫することによる平均賃金の上昇が予想されます. このコストアップがデフレからインフレへと転換するカギとなるでしょう. 労働市場の需給ひっ迫により生ずるインフレは好ましいインフレです. 富が国内で循環するからです.

一方, 下記の通り食品とエネルギーは外的要因により既にインフレを迎えています. しかしこれは好ましい物価上昇ではありません. この悪影響を抑えるためにも労働需給ひっ迫による賃金上昇が望まれます.

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食品とエネルギーは既にインフレになった.
国内がデフレ環境の中, 近年じわじわと物価が上がってきたのが食品とエネルギーです. 詳細は前回の記事の通りです. 変動の大きいこれら 2 つの数値は CPI 計算時に通常は除かれてしまいます. しかし, 除かれたこれらの数値に関してはすでにインフレが続いています. なぜならこれらの価格は 国際市場価格に連動するため国内の景気と関係なく外的要因で決まるからです. 国内の農作物, 畜産は国際市場と一見関係ないようにも見えますが輸入原料を元にこれらの生産を行っているため外的要因を大いに受けます.

エンゲル係数については 2005 年を底に上昇に転じ, 支出額は 2011 年を底に上昇に転じています. この生活の基盤となる食品とエネルギーの値段が上昇したために, その他の消費に向けられる可処分所得も減りました. これらは悪い物価上昇です. 労働者の賃金はそのままに物価だけが上がり, むしろ国内の景気を冷え込ませる原因になります. 加えてこれら輸入品の物価が上がることで富が国外に流れ出ることにも繋がります.


有効求人倍率は上昇を続けている.
しかし労働者の賃金上昇による物価上昇は違います. これは健全なインフレです. 労働者の給料が上がることで購買力が維持されます. 下図は有効求人倍率と失業率の推移です. 2015 年時点で有効求人倍率は 1.0 倍を超え 1.2 倍に届こうとしています. 当然それと歩調を同じくし, 失業率も約 3% とほぼ完全雇用を達成しています.  
総務省データより作成
有効求人倍率と失業率の推移で分かることが一つあります. それは 1989 年を頂点としたバブル景気とその前後で示す低い失業率です. 1980 年から 1992 年に示した平均 4.4% の経済成長率 (最大 7.1%, 1988年) が今後も続くと見越して大量の労働者が雇い入れられた事を示しています.

総務省データより作成. 経済成長率は GDP 前年比
しかし, その後一気に国内経済は冷え込み, 1% を下回る成長率を示します. その結果として有効求人倍率の急低下と失業率の急上昇を示します (最大 5% 前後). しかし, 景気減速時の失業率が最高でも 5% 前後というのは他の先進国と比較して非常に低い値です. 1992 年から現在までの 25 年間は, 雇い過ぎた労働者の需給調整に費やした 25 年と見ることもできるでしょう. 労働者が定年退職するのを待ったわけです. このように諸外国と比較して流動性が劣る労働市場の需給改善に, 実に 25 年の年月を掛けてきたのです. これが結果として平均賃金の下落にも繋がり, 失われた 25 年を形作る一端となりました.

しかし, この状況も生産年齢人口の減少により変わります. 上記の通り労働需給のひっ迫が近い将来起こることで, これが賃金の上昇とインフレに繋がることとなります. 日銀の経済政策では無く, 日本が自然に迎える構造転換によりデフレからインフレへとその流れは変わっていくことでしょう.  この流れがはっきりしてくれば, 案外日本の将来は明るいのかもしれません.
(首尾よく物価が上がり始めたその時に, 日銀が抱える膨大な日本国債残高やその含み損が金融政策に大きな影響を与える事が懸念されますが, でもこれはまた別のお話.)

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もう少しニュース等で取り上げた方がいいと思います.
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前回の記事です.
物価は上がる. でも決して日銀のおかげではない. 労働市場の構造変化から見る日本の未来①

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