老後に必要な生活費は資産を取り崩すのでは無く, 資産からのキャッシュフローにより賄う事を前提とした方がいい.

老後に向けた資産形成を早くから考える方も多いと思います. 私はその一人であり,『老後のための資産形成』や『老後に必要とされる金額』等のコラムはついつい読んでしまいます. そこで目にするのは『3000 万円の資産があれば大丈夫』とか 『ライフスタイルなら 1000 万円以下でも OK』などと示され, およそ 1000-3000 万円程度の資産が用意できれば老後は安泰と結論付けられていることが多いです.


しかし, ここで示されている試算の基本姿勢は全て


『退職までにいくら資産を積み上げれば, それを食い潰しながら死ぬまで真っ当な生活ができるのか』


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といったことに主眼が置かれており, 予定以上の長寿はリスクであると捉えかねない試算結果や助言となっています. 60 歳で定年退職し, 貯蓄を切り崩しながら20-25 年以上のリタイア生活を送ります. そこでようやく平均寿命に到達しますが, その時になって天寿を全うするのが先か, それとも貯蓄が尽きるのが先かなんて悩みたくはないですよね.


この問題を避けるために, 私たちが本来注目しなければならないのは


『いくら資産があればそのキャッシュフローで真っ当な生活が送れるのか』


この一点に尽きます.


しかし, 残念ながらこの視点に立って議論されているコラムは殆ど見かけた事がありません. ゼロ金利下での預貯金を用いた運用難により具体的な商品や戦略が上げづらいことに加えて, 日本人の投資を何か卑しいものとして忌避する姿勢からそのようなコラムを執筆しても読者からの共感は得られないのかもしれません.


それに退職を現実問題として考え始める 50 代前半で突然, 『老後に必要な支出は資産から生み出されるキャッシュフローで賄おう』などといったコラムを読んでも『え, 元本が保証されない資産に老後のための蓄えを充てる事なんてリスクが高すぎてできないよ』と考えますから無駄な不安を煽るばかりでこれもよろしくありません.


ですから 50 代前半から定年までに現実的に貯蓄可能な (又は退職金として受け取る事を想定可能な) 1000-3000 万円といった金額があれば老後の生活は安泰なように試算されるのが一般的です.


しかしこれで本当に足りるのでしょうか. 少し試算してみます.

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試算条件
22 歳で就職, 60 歳で定年, 就労期間中平均年収 500 万円/年
配偶者は専業主婦 (主夫)


22 歳で正社員として就職, 60 歳で定年を迎えたと仮定し, この期間の平均年収が 500 万円/年 だとします. 配偶者は専業主婦(主夫)で第 3 号被保険者 (20-60 歳の期間) とします.
(現在, 年金の受給開始年齢を 60 歳から 65 歳までに徐々に引き上げられていますが, 既に 65 歳から受給開始になったと仮定して考えました. 60 歳定年から受給開始となる 65 歳までの空白の 5 年間は再就職又は嘱託職員などで就労により年金分を穴埋めしたと仮定しています.)


年金の年間支給額は夫婦で 302.8 万円
本人が受け取る厚生年金は年間 113 万円, 月額 9.4 万円です. 国民年金受給額は 111 万円, 月額 9.3 万円です.


これらとは別に, 配偶者も年金を受給できます. その基礎年金は 78.8 万円, 月額約 6.6 万円です.


厚生年金, 国民年金と配偶者の基礎年金の合計金額は 302.8 万円となり, 月額約 25.2 万円が年金として受け取れる計算になります. ここから所得税, 住民税, 国民健康保険料を差し引かれ手取りで 20 万円ほどとなるでしょうか.


年間 120 万円不足する
年収 500 万円の給与は月額約 41.7 万円で, 非消費支出 (所得税, 住民税, 厚生年金保険料など) で約 10 万円差し引かれると仮定すると可処分所得は約 30 万円となります. 生活水準を変えることなく退職後も過ごすとなれば, この可処分所得 30 万円と年金 20 万円の差額 10万円が赤字となりますから, 貯蓄を取り崩して穴埋めする事になります. その額は年間で 120 万円ですね.


この夫婦が 85 歳まで生きたと仮定すると 25 年間貯蓄を切り崩して生活することになります. その額は25 年間の合計で約 3000 万円です.
貯蓄 3000 万円では 85 歳でゲームオーバー
ご覧の通り平均年収 500 万円の現役時代と同等の生活を送る為には 85 歳で亡くなると仮定しても 3000 万円もの金額が必要です. しかも, ここからさらに長生きして 90 歳まで生きたと仮定すると既に貯蓄はゼロですからその後の 5 年間は赤字に転落します. 85 歳を過ぎてこんな不安な思いを抱きたくないですよね.


3400 万円を 4.5% で運用出来れば不足分がカバーできる
3000 万円をただ食い潰す生活では 85 歳でゲームオーバーです. しかし, この 3000 万円に400 万円を加えて 3400 万円とし, これを年率 4.5% で運用出来たらどうなるでしょうか.
税引き後手取りで年間 120 万円の運用益が手に入ります. たった 400 万円を上乗せして運用益を得るだけで資産を取り崩す必要すら無くなります. しかしこれは少々出来過ぎな試算に見えますか? そうですね. そう見えなくもありません.


ではこれはどうでしょう.
更に保守的に見積り, 年率 3% で 30 年間積立投資をすることとしました.


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30 年間掛けて元本 3000 万円を年利 3% で積立てる.
30 歳から積立投資をはじめ, 毎月 8.7 万円を 30 年間積立投資し, この時の運用益を年率 3% と仮定します.


この仮定の下で投資を継続した場合 30 年間の累積投資元本は約 3150 万円となります. この金額は老後の生活費として 85 歳に到達するまでに必要とされる金額 3000 万円とほぼ同額ですね.


しかし, 今回の積立投資では年率 3% の運用益が複利で発生いたします. このため, その累計利益として 1850 万円が上乗せされた 5000 万円が 60 歳を迎えた時に老後資金として用意された状態にあります.


この 5000 万円からは毎年 3% の運用益が生まれる.
積立投資を継続して得られた 5000 万円からは毎年平均して 3% の運用益が得られます. この運用益を金額に直すと 150 万円であり, 20% の課税後では 120 万円が手元に残ります.
いかがですか? 同じ 3000 万円を元本として積み立てただけだったのに年率 3% で運用したことにより大きな差が生じる結果となりました.


この例では, 老後の生活費として取り崩していた 120 万円が 30 年掛けて積み上げてきた資産から毎年生み出されることで, 元本を一切取り崩すことなく, 寿命が尽きるまで何年でも現役時代と同じ生活水準で過ごすことができるようになりました.


この様に, 例え同じ金額を元本として積み立てたとしても, 投資家の視点に立てば想定するリターンによって様々な手段が見えてきます.  


そして, 今回のこの試算により, 老後の生活費を資産から生まれるキャッシュフローにより賄うという考え方も現実的な解の一つであることが見えてきたのではないでしょうか.


補足
老後の生活費は現役時代の 0.7 掛けで生活できるとよく言われますが, それも人それぞれでしょう. 老後は医療費がかさみますし 0.7 掛けで収まる保証はありません. 年金の支給額が現役時代の 0.67 掛け程度程度ですから, その金額前後に生活費を抑えるしかないというのが実態でしょう.

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