物価は上がる. でも決して日銀のおかげではない. 労働市場の構造変化から見る日本の未来①

労働市場が大きな転換期を迎えようとしています.
全ての価格は需給で決まります. 労働力もそれは変わりません. 労働市場のひっ迫から歴史の転換期が見えてきました.
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1998 年が時代の区切り
かつて日本は人口の急激な増加による需要の上昇に支えられ GDP 世界 2 位まで押し上げられてきました. 健全なインフレは経済規模の拡大, 需要の増加によってもたらされます.
需要が増え, 生産量が増え, 企業の利益の上昇と比例して従業員の賃上げ圧力に答える形で賃金も上がり, これがさらに需要の増加をもたらして物価が上がっていきます.

これが健全な物価上昇です. この物価上昇は国民の痛みを伴いません. 購買力の上昇, 賃金の上昇等, 目に見える形で彼ら自身が豊かさを実感し, 経済成長の利益を存分に享受するからです. 需要の増加は単純にいえば人口の増加とイコールですし, さらには生産年齢人口の増加に比例します. なぜなら彼らの稼いだお金を元に, その他すべての人々の需要を満たす必要があるからです. よって, 生産年齢人口の増加が需要と供給の増加に直結し, 経済成長の両輪となって GDP を押し上げました. かつて日本もそんな時代がありました. 年功序列の日本型雇用も家計部門の安定に寄与し, 1998 年まで平均給与も上昇を続けました.
以下に『生産年齢人口』『雇用者数』『一人当たり生産性』『平均給与』をプロットしたグラフを示します. 右軸が『万円』左軸が『10万人』となっています.
グラフは総務省データより作成

しかし, バブル崩壊から約 5 年後の 1995 年に, 生産年齢人口が 8700 万人を頂点として減少に転じると状況が変わります. 雇用者数が 3 年後の 1998 年から緩やかな減少に転じるに伴い平均賃金も減少を始めました. 1998 年はアジア通貨危機と合わせて銀行, 証券会社が相次いで破たんする金融不況と1997 年に実施された消費税の 5% への増税により景気後退が決定的となり経済成長がマイナス (-1.81%) となります. 平成バブルの崩壊から遅ればせ 9 年後の 1998 年, 家庭部門の不況はここから始まります.

平均給与は 1998 年の 467 万円を頂点として年々低下を続け, IT バブル崩壊後から 2007 年まで続いた息の長い景気拡大期を通しても一貫して下がり続けました.『実感無き景気拡大』と呼ばれた時代です. 平均賃金の低下がそれを裏付けています. ではなぜ賃金が上がらなかったのか, それは生産年齢人口の推移と就業者数の推移を見ればわかります. 生産年齢人口は年々減少していますが, 就業者数については生産年齢人口ほどの減少を見せません. ほぼ横ばいです. これは定年退職を迎えた労働者が再雇用により仕事を続けたことによります. また退職した彼らの代わりとして非正規雇用者数も一定数増加を見せました. これらの状況により労働者の賃金を押し下げることになります.
一方で生産年齢人口の落ち込みとは異なり 2010 年まで日本の人口は増加を続けています.
生産年齢人口と平均給与が下がる中で総人口が増えたため, 各家庭の購買力は低下します. これは必然です.  最も購買力があるはずの生産年齢人口が減り, 加えて平均給与の低下, 社会保障費の負担増加により可処分所が年々減っています. この様な状況で, 従属人口が 2010 年まで増加を続けたのです. さらに, 労働者自身の年金に対する不安から将来に備えることで 消費する余裕を失いました.
この様に購買力の源泉となる生産年齢人口の減少と, 平均給与の低下という 1998 年から顕著となった一連の構造変化はデフレという形でその影響が表れることとなります.

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金融政策でデフレが克服できなかったのは必然
上記の通り, 日本の経済成長を支えた前提が崩れた1998 年から今に続くデフレが始まります. このデフレを克服するために日銀は量的緩和政策を導入しますが, 国民の購買力が低下した中では個人消費は増えず, 企業も設備投資と賃金の抑制でそれに答えることとなります.
日本型雇用最大の問題点は企業の業績に合わせて人員を整理しにくい点です. 経営者は簡単に労働者のクビを切れません. 正規労働者は一度雇うと 35 年の長期に渡り会社に仕えます. 30 年を超える期間で正確な人員計画を立てるのはほぼ不可能でしょう. この緩衝材の役割も兼ねて非正規雇用が広がり, その結果として生産年齢人口の落ち込みに抵抗し就労者数は比較的維持されることとなります.
一人当たり生産性についても 2008 年の金融危機までは一貫して 780万前後が維持されました. これが意味することは正規雇用者, 非正規雇用者間に生産性の違いが無かったという事です. 年功序列で高給となった労働者が定年退職で去り, その代わりとして賃金水準の低い労働者が彼らの仕事をおこないました. この低賃金と比較的流動的な雇用契約という緩衝材の効果もあり日本の失業率は諸外国と比較して低位で推移します.
総務省データより作成
一方, この安定した雇用環境と引き換えに平均賃金の下落は定着し購買力も下がったため, それに歩調を合わせるようにデフレが定着します. こうして 1998 年からの 20 年をかけて日本人は一律に貧しくなりました. この低賃金の環境が維持できたのは, 先のグラフの通り雇用者数と生産年齢人口に大きな差があったからです. 潜在的な労働力が多分にありました.

前半は日本がデフレを迎えた原因とこれまでの労働市場を考察しました. 後半は, いよいよ労働市場の転換によるデフレ脱却についての考察に移ります. 続きます. (こちらのリンクまたは下記の関連記事を参照ください.)

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