物価は上がる. でも決して日銀のおかげではない. 労働市場の構造変化から見る日本の未来番外編 -食費と燃料費は既にインフレを迎えている-

 2000年代初めに日銀がデフレを 認めてから既に 17 年が経過しました. その間に量的質的金融緩和をはじめ種々の金融政策によりこの状況を打開しようと試みてきましたが, 未だその目標を達成していません.

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エネルギーと食料品は価格が上昇している.
しかし, 本当にデフレ環境が続いているのでしょうか. どこか違和感を感じたことはございませんか? デフレと叫ばれる環境で, 食料品は値上げが続いています. 1990年初めには飲み物 350mL 缶であればおよそ 100 円, カップ麺 110 円, 食パン 1 斤は 115 円 程でした. 今ではそれぞれ 130 円, 140 円, 150 円程です.

この様に食料品は継続して値上げが続いています. これは明らかなインフレです. 通常インフレの指標として用いられる CPI ですが, これは値動きの大きい食品, エネルギーを除いた調整後の値がよく使われます. ここに問題があります. 近年値上がりが顕著な食品とエネルギーが計算に加えられていないのです. 食品, エネルギーは生活の基盤となる消費です. これらは経常的に支出するもので, どの家庭でも先ずこれらの支出を基本とし, 残ったお金をその他の消費に回します.

データは社会実情データより引用.
上図は 1 世帯当たり月平均食費支出の推移です. 1992 年を頂点として 2005 年まで 13 年間下落を続けますが, その後横ばいまたは漸減という状態が 2011 年まで続きました. しかし 2012 年から再び上昇傾向を示し, 今では 2002 年の水準まで食費支出が上昇しているのが分かります.

エンゲル係数が急上昇している
食費の上昇が家計に与える影響を端的に表すのがエンゲル係数です.
近年エンゲル係数が急上昇しています. 食品の消費額は上記の通り 2002 年の水準に戻っただけですが, エンゲル係数は異なります. 下記の通り 2005 年の 22.9% を底として反転し, 2012 年までは緩やかに上昇, 2013 年から急上昇を見せています. 総務省資料によると  2010年 から 2015 年まで 5% 程平均給与が上がりましたが, 消費支出は 7.5% の上昇を見せています. この影響がエンゲル係数の上昇として現れました. 2000 代初めに比べて私たちは相対的に (しかも急激に) 貧しくなっています.

 総務省データより作成.

エネルギー価格も同様です. 以下のデータは世界のネタ帳より引用し作成しています. 対円としたデータの提供元は限られているため有り難いです.
1998 年を底として長く上昇傾向を示していることが分かります. 近年の原油価格の高騰から 2004 年から 2014 年までの 10 年間の動きは突き抜けています. しかし昨年の原油在庫のダブつきから世界的な原油需要の減少を恐れ 2016 年 に 24 ドル前後まで急落します. しかし産油国の減産合意と実行によって, これを底として反転し 2017 年 6 月現在 47~51 ドル前後を示しています. 今後も 40~60 ドル前後の値動きを続けながら徐々に値を切り上げていくことが予想されます. ちなみに私が子供のころ (約30年前) は, ガソリン価格が 91~95円/L 程度でした. 最近では 100 円を割ることはほとんどありません. 高くなったものです.

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私論ですが, 原油の需要が頭打ちとなりこれ以上の価格上昇は望めないというのは幻想です. 世界経済は着実に拡大を示し, 新興国も成長を続けています. また, 原油の決済にはドルが使われますが, ドルは年 2% 程度インフレに連動してその価値が下がります. この傾向から長期的にはインフレに連動し 2% 程度原油価格が切りあがる事が容易に予想できます.

『脱デフレは大いなる幻想』
これはイオンの決算報告時に聞いた言葉です. これまでの議論からこの言葉は間違いなのでしょうか? いいえ, これも真実を述べています. 消費者は食品, エネルギー費を払った後に残ったお金を消費に回します. エンゲル係数の増加から分かるように人々の可処分所得が低下しています. このために調整後の CPI に含まれる衣類, 家具, 家電等に消費する余裕があまりありません. 実際に, GMS を展開するイオンの中核子会社, イオンリテールの営業利益が 466億円 (12年2月) から 86 億円 (17年2月) に激減しています. この様に小売業は苦しい状況が続いています. エンゲル係数の上昇を裏付けるように, 関連記事の通り金融危機後に急落した平均給与は僅かながら向いてきたものの, 金融危機前を回復するにはほど遠く, ほぼ横ばいであることがわかります.

しかし, この状況が近いうちに変わるかもしれません. 答えは労働市場が迎えた大きな転換からです. 詳細は関連記事(またはこちらのリンク)を参照ください. 関連記事の続きは 7 月上旬にアップします. (誤字など訂正しました(まだあるかもしれませんが...) 17年 7 月 2 日)


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